【業界記事】2025年最新|管工事業界のM&A動向と注目事例を解説

少子高齢化が進む日本の産業構造において、建設業の一角を担う管工事業界も深刻な後継者問題に直面しています。特に中小企業では、親族内での事業承継が難しいケースが増加し、M&Aによる第三者承継が注目を集めています。本記事では、管工事業界における事業承継の現状とM&Aの動向、成功事例を踏まえ、将来を見据えた選択肢を解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済
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管工事業界とは?
管工事業界は、建築物や設備に関する配管工事を担う建設業の専門分野です。生活インフラや産業活動に欠かせない、さまざまな設備の構築と維持を支えています。具体的には以下のような分野に分類されます
業種 | 説明 |
---|---|
給排水管工事 | 建築物の給水・排水システムを構築。水道本管接続や室内の水回り設備設置も含む。 |
ガス配管工事 | 都市ガス・LPガス等の供給配管の敷設や機器への接続、安全対策を含む工事。 |
空調設備工事 | 冷暖房・換気・加湿・除湿などの設備設置やメンテナンス。家庭用から業務用まで対応。 |
衛生設備工事 | トイレ・洗面台・シャワーなど衛生設備の配管や機器設置、衛生基準への適合も重要。 |
浄化槽工事 | 下水道が整備されていない地域で生活排水を処理する浄化槽の設置・管理。 |
冷凍冷蔵設備工事 | 食品工場や物流倉庫などの冷蔵・冷凍機器、配管・熱交換設備などの設置。 |
厨房設備工事 | 飲食店や業務用厨房の給排水・ガス・ダクト工事を含む調理空間の施工。 |
ダクト工事 | 空調や換気用の風道(ダクト)を設計・施工し、建物内の空気循環を管理。 |
これらの工事はいずれも高度な専門知識と技能を要し、国家資格を持つ技術者によって行われることが多く、社会の安全性・快適性に直結する重要な業務です。
管工事業界の課題
1. 高齢化と後継者不在
建設業界の経営者の平均年齢は60.5歳。中小の管工事事業者においては後継者が決まっていない割合が60%以上に達しており、廃業のリスクが顕在化しています。(出典:建設業における事業承継実態調査|国土交通省)
2. 技術者・資格者の確保
管工事は「1・2級管工事施工管理技士」、「給水装置工事主任技術者」、「1・2級配管技能士」などの有資格者が必要であり、建設業許可や経審の維持にも関わる重要要素です。技術者不足は事業継続だけでなく、許可維持にも直結し、事業承継の大きな壁となっています。
3. 法改正への対応負担
2025年に施工予定の建設業法改正では、以下の項目が強化されました:
- 労働者の処遇改善(賃金水準の適正化)
- 労働時間の適正化、現場管理の効率化(上限規制)
- 労務費の明示義務(しわ寄せ排除) これにより、企業にはコンプライアンス対応とコスト管理の両立が求められ、体力のない中小企業には大きな経営課題となっています。
4. 建設業許可と継承の難しさ
建設業許可は「経営業務の管理責任者」「専任技術者」などの人的要件を満たす必要があり、承継時にこれらの引継ぎができない場合、許可の更新が困難となるリスクがあります。M&Aの際にも、許可・経審点数の維持は買い手にとって重要な判断材料です。
管工事業界のM&A事例
日本エコシステム株式会社による葵電気工業株式会社の全株式取得(2023年1月)
日本エコシステム株式会社は、葵電気工業株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。これにより、ファシリティ事業でのサービス提供範囲拡大と新規取引先開拓を図っています。
北陸電気工事株式会社による株式会社蒲原設備工業の全株式取得(2022年12月)
北陸電気工事株式会社は、株式会社蒲原設備工業の全株式を取得し、子会社化しました。これにより、新潟方面への事業進出の足掛かりと、北陸エリア及び関東方面での商圏拡大を見込んでいます。
高砂熱学工業株式会社によるWOTA株式会社の第三者割当増資引受(2023年6月)
高砂熱学工業株式会社は、水処理自律制御システムを開発するWOTA株式会社の第三者割当増資を引き受け、協業を開始しました。これにより、互いの技術・ノウハウを活用し、水に関する社会課題の解決を目指しています。
矢作建設工業株式会社による北和建設株式会社の全株式取得(2023年3月)
矢作建設工業株式会社は、北和建設株式会社の全株式を取得し、完全子会社化しました。これにより、関西エリアでの事業基盤強化と受注拡大を図っています。
株式会社イシイ設備工業による東海管工株式会社の事業継承(2021年2月)
株式会社イシイ設備工業は、東海管工株式会社の事業を継承しました。これにより、経営資源の拡充と事業エリアの拡大を図っています。
M&Aのメリット・デメリット(業界特有の観点)
メリット
- 有資格者・許可体制の維持:買収側は技術者や建設業許可、経審をセットで引き継ぐことができ、入札資格などを即座に活用可能。
- 公共工事の実績獲得:小規模でも実績ある企業のM&Aにより、新規参入ハードルが下がる。
- 地域の営業基盤・元請取引の獲得:地域密着の信頼関係が継承され、既存顧客や元請けルートの喪失を防げる。
デメリット
- 個人依存の業務体系:熟練者の退職と共に技能・情報が喪失するリスク。
- 既存契約・請負形態の複雑さ:一人親方や外注比率が高く、契約整理に時間を要することも。
- 文化ギャップの統合コスト:地域に根差した企業文化の違いがPMI段階で障害になるケースがある。
M&Aの主要な流れ
管工事業におけるM&Aは、単なる事業売却や譲受ではなく、技術者・許認可・地域との信頼関係など「人的・制度的資産」の移転を伴います。そのため、以下のような段階を経て慎重に進められる必要があります。
1. 事前準備
- 財務資料の整理(貸借対照表、損益計算書、受注台帳など)
- 許可状況・経審点数・資格保有者リストの整備
- 顧客リスト・元請との契約内容の棚卸し
2. M&A仲介会社・専門家への相談
- 建設業専門のM&Aアドバイザーに相談し、自社の評価・譲渡方針を策定
- 許認可・資格者の引継ぎ可否を法的に精査(行政書士・社労士などと連携)
3. 買い手候補とのマッチング
- 同業のスケールアップ目的の企業、または異業種からの設備事業参入目的の企業と交渉
- 候補先の選定にあたっては、地域相性・実績重視・文化整合性の確認がカギ
4. 基本合意・デューデリジェンス
- 基本合意書(LOI)を締結し、財務・法務・技術・許可状況を詳細に調査
- 建設業許可・経審の引継ぎ条件や要件充足の可否確認(専任技術者の在籍確認など)
5. 最終契約・クロージング
- 売買契約書を締結し、従業員・顧客への通知や契約切替を実施
- 許可変更届、商号変更、銀行取引契約などの実務を実行
6. PMI(統合プロセス)
- 社内制度・工事管理システムの統一
- 社員教育・報酬制度の調整
- 地域ステークホルダー(元請・自治体など)への説明対応
管工事業界の今後の展望
1. 技術の高度化とBIM・DX活用
BIM(Building Information Modeling)やクラウド施工管理ソリューションの導入により、従来の属人的な施工計画から脱却し、業務の標準化・自動化が進んでいます。中小事業者でも、DX推進による競争力強化が必要不可欠です。
2. インフラ再整備需要と防災対応
老朽化が進む上下水道や公共施設の更新需要は今後10年で本格化。特に地震・豪雨などの災害対応インフラへの投資が増加する見込みで、地域の施工対応力が求められます。
3. 環境規制とZEB対応
政府が推進するカーボンニュートラルに伴い、ZEB(ゼロエネルギービル)や省エネ機器の施工ニーズが拡大。空調・熱源設備の高効率化に対応できる施工体制の構築が求められます。
4. 建設業法改正と労働環境の改善
建設業の働き方改革が本格化する中、2025年以降、
- 処遇改善加算の導入
- 時間外労働の厳格管理(36協定規制)
- 労務費の明示義務 など、 法改正への対応が経営上の優先課題となります。
事業承継やM&Aは、こうした制度変化にスムーズに対応する一つの選択肢といえます。
まとめ
管工事業界では、高齢化や人材不足、法改正による負担増により、事業承継の選択が避けられない課題となっています。親族承継や社内承継が困難な場合、M&Aを通じて事業の価値を未来につなげる選択が有効です。今後を見据えた計画的な準備と、業界再編の潮流に沿った戦略的な判断が、成功する承継の鍵となるでしょう。
■ 担当コンサルタント紹介
たすきコンサルティングでは、管工事業界に精通した専門コンサルタントが、貴社のニーズに合わせた最適な事業承継支援を提供しております。後継者選定から経営資源の引継ぎまで、専門的なサポートで貴社をバックアップいたします。

業界特化法人部 コンサルタント
安達 真登
大学卒業後、新卒で山形県庁に入庁。約7年半、商工や財政部門の業務に従事。その後、農林水産省への出向を経て、2024年10月からたすきコンサルティングに参画。
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管工事業界を取り巻く環境は大きな変化を迎えています。人材不足や市場競争の激化、事業承継の課題など、多くの経営者様が将来への不安を抱えていらっしゃいます。
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