M&AにおけるMBIとは?MBO・TOB・LBOとの違いや成功ポイントを解説
M&Aの手法のひとつにMBI(マネジメント・バイイン)があります。MBIは、外部の経営陣が買収資金を調達して企業を買収し、経営権を獲得する方法です。M&Aでは、MBI以外にもMBO(マネジメント・バイアウト)やTOB(株式公開買付け)、LBO(レバレッジド・バイアウト)といった手法がありますが、それぞれ特徴や目的が異なります。
本記事では、MBIの基本的な仕組みやMBO・TOB・LBOとの違い、さらに成功のポイントについて詳しく解説します。

MBIとは?
MBI(Management Buy-In:マネジメント・バイイン)とは、外部の経営陣が自ら資金を調達して企業を買収し、経営権を獲得するM&A手法のひとつです。
MBIでは、買収する企業の外部にいる経営者や経営チームが主体となって企業を買収し、買収後に新たな経営体制を構築します。つまり、企業外部の第三者が経営に参画することで、新たな視点やノウハウを経営に持ち込み、企業の再生や成長を図るのが特徴です。
MBIが行われる主なケース
✅ 後継者不在による事業承継
後継者が不在で事業承継が困難な場合、MBIは有効な手段となります。既存の経営陣に後継者がいない場合、外部から優秀な経営者を招き、MBIを通じてその経営者が企業を買収し、経営権を取得します。これにより、外部からの新たな視点やノウハウが経営に反映され、事業の継続と成長が可能となります。特に中小企業においては、後継者不足が深刻な問題となっているため、MBIを活用した事業承継は有効な解決策となっています。
✅ 業績不振企業の再建
業績が低迷している企業の再建を目的に、MBIが活用されるケースがあります。経営状況が悪化している企業に対して、外部からプロフェッショナルな経営陣を招き、MBIによって経営権を取得します。新たな経営陣がこれまでの経営課題を分析し、事業の再構築やコスト削減、収益モデルの見直しなどを行うことで経営の立て直しを図ります。これにより、外部の知見やノウハウを活用した効果的な経営改革が実現し、企業価値の向上が期待できます。
✅ 事業再編・企業分割
事業再編や企業分割を目的に、MBIが行われるケースがあります。企業グループの中で収益性が低い事業や非中核事業を切り離し、スピンオフ(事業分割)することで、新たな成長戦略を模索することがあります。この際、外部から招いた経営陣がM&Aによってその事業を買収し、独立した経営体制を構築します。新たな経営陣のもとで、独立経営による意思決定のスピード向上や柔軟な経営戦略が可能となり、企業価値の向上や競争力強化につながります。
MBIとMBOの違い
MBIと似た言葉にMBOがあります。MBIとMBOは、いずれも経営陣が企業を買収するM&Aの手法ですが、買収主体や目的が異なります。
MBO(マネジメント・バイアウト)は、既存の経営陣が自社またはその事業部門を買収し、経営権を取得する方法です。経営陣が主体となって買収を行うため、意思決定のスピードが上がり、短期的な利益追求から解放されて中長期的な成長戦略を実現しやすくなります。特に、上場企業が株式を買い取って非上場化(プライベートカンパニー化)を目指す場合に利用されることが多く、経営改革や資本効率の向上に役立ちます。
MBIは「外部の視点で新たな経営戦略を取り入れる」ことを目的とし、MBOは「既存の経営体制を維持しながら経営権を強化する」ことを目的としています。そのため、事業再建や成長戦略を求める場合には「MBI」が、経営安定化や意思決定の迅速化を図る場合には「MBO」が適しているといえます。
MBIとTOB、LBOの違い
TOB(Take Over Bid:株式公開買付け)とは、買い手(企業や投資ファンド)が証券市場を通じて、不特定多数の株主から一定価格で株式を買い取ることで企業の支配権を取得する手法です。
TOBは、買収対象企業の株式を市場で直接取得するため、敵対的買収や友好的買収のどちらにも用いられます。特に上場企業の買収や非上場化(プライベートカンパニー化)を目的としたM&Aに多く利用されます。
MBIとの大きな違いは買収の目的で、TOBは、買収対象企業の株式を証券市場で取得するのに対して、MBIは外部の経営陣が資金を調達し、企業を買収して経営権を取得する点が大きく異なります。
また、LBO(Leveraged Buyout:レバレッジド・バイアウト)とは、買収対象企業の資産や将来的なキャッシュフローを担保にして金融機関から借入れを行い、その資金を用いて企業を買収する手法です。
LBOでは、買収後の企業の利益やキャッシュフローを活用して、買収にかかった借入金を返済します。自己資金が少なくても大規模な買収が可能になるため、プライベート・エクイティ(PE)ファンドなどが活用するケースが多く見られます。
MBI、MBO、TOB、LBO 使い分けのポイント
手法 | 目的 | 活用シーン | 資金調達方法 | 買収後の運営 |
---|---|---|---|---|
MBI | 新しい経営体制の導入・成長戦略 | 外部経営陣による事業再生・事業承継 | 投資家・金融機関 | 新たな経営体制を構築 |
MBO | 経営権の確立・迅速な意思決定 | 現経営陣が主導する成長戦略・株式非公開化 | 経営陣・投資ファンド・金融機関 | 既存経営体制を維持・強化 |
TOB | 経営権の取得・市場シェア拡大 | 上場企業の買収・敵対的買収・友好的買収 | 市場を通じて株式買付 | 必ずしも経営体制に変更なし |
LBO | 大規模なM&A・資金効率化 | 買収対象企業の資産や収益を担保にした買収 | 銀行融資・投資家 | 既存経営体制を維持 or 変更 |
✅ 外部経営陣を導入して企業再生・事業成長を目指す場合 → MBI
✅ 現経営陣が主導して経営権を確立したい場合 → MBO
✅ 株式取得を通じて経営権を獲得し、成長戦略を推進したい場合 → TOB
✅ 大規模な買収を効率的に行いたい場合 → LBO
MBIのメリット
MBIには、外部の経営ノウハウや新たな成長戦略を導入できるという大きなメリットがあります。特に、業績不振や後継者不在などの課題を抱えている企業にとって、外部からの専門的な知見やノウハウを取り入れることで、企業の再建や事業の成長を実現しやすくなります。

① 外部の経営ノウハウや成長戦略を取り入れられる
MBIでは、外部から経営陣を招き入れることで、新たな視点や経営ノウハウを取り入れ、企業の成長や改革を促進することが可能です。これまでの経営方針に固執せず、新たな戦略を積極的に導入することで、事業の活性化が期待できます。また、プロフェッショナルな経営者がリーダーシップを発揮することで、迅速な経営判断や市場対応が可能となります。
(例)
これまで停滞していた市場開拓を、外部経営陣が持つマーケティング戦略を導入することで打開し、新たな収益基盤を確立したケースがあります。
② 業績不振企業や経営危機に対応できる
MBIでは、外部のプロ経営者が買収後に経営権を取得することで、収益改善やコスト削減、組織改革が可能になります。これにより、既存の経営体制を抜本的に見直し、経営の立て直しを図ることができます。また、事業の選択と集中を行い、不採算事業から撤退することで、収益の最大化が期待できます。さらに、財務改善や人材の再配置を進めることで、企業の競争力や収益基盤を強化することが可能です。
(例)
MBIにより経営陣が交代し、不採算部門を整理した結果、コスト削減と収益改善が実現したケースがあります。
③ 事業承継がスムーズに進む
後継者不在の企業にとって、MBIは事業承継の有効な手段となります。外部の経営陣がMBIを通じて経営を引き継ぐことで、既存の経営者がリタイアした後でも事業を安定して継続できるようになります。また、従業員や取引先との関係を維持しながら経営権を引き継ぐことが可能であり、企業の信頼性や取引関係を損なうリスクを抑えられます。さらに、承継後に新たな成長戦略を実行することで、企業価値の向上も期待できます。
(例)
創業者が引退した後にMBIを実行し、新たな経営者が事業を引き継いだことで、成長軌道に乗ったケースがあります。
④ 経営のスピードと意思決定力が強化される
MBIにより新たな経営陣が主体となることで、迅速な意思決定が可能となり、経営改革がスムーズに進みます。既存の経営陣に遠慮する必要がなく、思い切った戦略を実行できるため、経営資源の最適化や人事戦略の決定をスピーディに進めることができます。また、買収後に外部からの視点を積極的に取り入れることで、成長戦略を効率的に展開し、競争力を強化できる点も大きなメリットです。
(例)
新経営陣がリーダーシップを発揮し、迅速な経営判断により競争力を強化したケースがあります。
⑤ 企業価値の向上が期待できる
MBIにより外部から経営のプロフェッショナルを迎えることで、経営力の向上が期待でき、結果として企業価値の向上が見込めます。経営改革によって収益力が向上し、企業の成長力が高まることで、経営の安定化と競争力強化が実現します。また、事業の選択と集中により経営資源を効率的に活用し、収益の最大化が可能となります。さらに、ブランディングやマーケティング戦略を強化することで、市場での競争力も向上し、企業の評価が高まります。
(例)
MBIによる経営改革により収益が増加し、企業価値が高まった結果、株式価値も上昇したケースがあります。
MBIのデメリット
MBIは、外部の経営陣を迎え入れることで企業の成長や改革を促進できる一方で、経営体制の不安定化や組織文化の摩擦などのリスクも伴います。特に、外部経営陣と既存の従業員や経営陣との間に価値観の違いや経営方針の不一致がある場合、組織運営が難航する可能性があります。また、資金調達や経営責任に関するリスクも存在するため、MBIの実行には慎重な計画が必要です。

① 既存の経営陣や従業員との摩擦が生じる可能性
MBIでは、外部から新たな経営陣を迎えることで、経営方針や企業文化の違いによる摩擦が生じる可能性があります。新しい方針への適応が求められる中で、従業員のモチベーション低下や業務効率の低下が懸念されます。また、コミュニケーション不足により、経営統合(PMI)が難航するケースもあります。
② 経営の安定化までに時間がかかる
MBIでは、外部から新たな経営陣が参入するため、企業文化や業務プロセスへの適応に時間がかかる可能性があります。組織再編や業務フローの見直しにより、一時的な混乱が生じることや、経営陣が事業に慣れるまでに時間が必要となることがあります。
③ 成功が外部経営陣の力量に依存する
MBIの成功は、新たに迎える経営陣のスキルやリーダーシップに大きく左右されます。新経営陣が企業文化や業界に適応できない場合、改革が進まない可能性があります。また、経営陣が早期に辞任すると、経営体制が不安定になることもあります。
④ 高額な資金調達リスクがある
MBIでは、投資家や金融機関からの資金調達が必要となるため、返済負担が財務を圧迫する可能性があります。収益改善が進まない場合、返済負担が経営に影響を与えることもあります。
⑤ 経営改革が短期的な利益追求に偏る可能性
MBIで投資家やファンドから資金調達を行う場合、短期的な利益目標が重視され、長期的な成長戦略が軽視される可能性があります。コスト削減やリストラが優先されることで、従業員のモチベーション低下や研究開発の抑制につながることもあります。
MBIの3つの手法
PEファンドやVCとの協力による買収
プライベート・エクイティ(PE)ファンドやベンチャーキャピタル(VC)などの投資家と外部経営陣が共同で出資し、企業を買収する手法です。
この方法では、外部経営陣単独での資金調達リスクを軽減できるうえに、投資家の資金提供により大規模な買収や成長戦略が可能となります。また、買収後もファンドが経営に関与し、戦略立案や事業展開をサポートするケースもあります。
投資家主導の外部派遣型MBI
企業買収後に、買収側(投資家や新オーナー)が外部の経営者を派遣して、経営権を握る方法です。
この方法では、買収側の意向が経営に強く反映されるため、経営改革や新たな戦略を実行しやすく、短期的な業績改善が期待できます。ただし、企業文化への適応や既存の従業員との摩擦が課題となる可能性があります。
後継者不在時の事業承継型MBI
既存の経営陣が引退や後継者不足などで退任し、買収対象企業が外部から新たな経営者を迎え入れる方法です。
この方法では、企業側が主体となって外部からの経営ノウハウを取り入れ、既存の経営体制や組織文化を維持しつつ、改革を進めることができます。ただし、新しい経営陣が企業文化に適応できなかった場合、経営改革が難航する可能性もあります。
MBIを成功させるためのポイント
MBIを成功させるには、単に外部から経営陣を迎えるだけでなく、経営体制や事業戦略をしっかり整備し、スムーズな移行を実現することが重要です。また、外部経営陣の力量や企業文化への適応、資金調達戦略など、買収後の経営リスクを最小限に抑えるための準備も欠かせません。

① 外部経営陣の選定と適応
MBIの成功には、業界知識やリーダーシップに優れた外部経営陣の選定が重要です。市場環境や企業文化に適応しやすく、ビジョンや戦略が既存の従業員や取引先と一致していることが求められます。
② PMI(経営統合)の徹底
買収後のPMI(経営統合)をスムーズに進めることで、組織の安定化や経営効率の向上が期待できます。新旧経営陣や従業員とのコミュニケーションを強化し、経営方針や成長戦略を明確に示すことが重要です。
③ 短期的な利益追求と長期的な成長戦略のバランス
短期的な業績改善だけでなく、持続可能な成長戦略を明確にすることが重要です。事業の選択と集中を行い、マーケット開拓や新事業への投資を促進し、長期的な企業価値向上を目指します。
④ 資金調達戦略の最適化
資金調達コストや返済負担を最小限に抑えるため、負債比率や金利負担を考慮し、自己資金・投資家資金・銀行借入のバランスを最適化することが重要です。
⑤ 既存従業員や取引先との関係維持
経営体制の変更が従業員や取引先に与える影響を最小限に抑えるため、経営方針を共有し、信頼関係を維持することが重要です。
M&AにおけるMBIとは まとめ
MBIは、外部から新たな経営陣を招き入れることで、経営改革や成長戦略を推進するM&A手法です。業績不振や後継者不在といった課題に対応しやすく、新たな視点やノウハウを取り入れることで、企業の競争力強化や収益改善が期待できます。
MBIを成功させるためには、外部経営陣の選定やPMI(経営統合)の徹底が欠かせません。また、短期的な利益と長期的な成長のバランスを取りつつ、資金調達戦略や従業員・取引先との関係維持も重要なポイントです。
MBIは、企業に新たな成長の機会をもたらす有効な手法ですが、経営陣の適応力や資金調達リスクなどの課題にも注意を払いながら、戦略的に進めることが成功へのカギとなります。
