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インサイダー取引とは?取引に該当するケースや未然に防ぐ対策について解説

株式投資に関するニュースなどでよく耳にする「インサイダー取引」。これは、企業の内部情報を利用して株式を売買することで、金融商品取引法に違反する違法行為とされています。インサイダー取引は、市場の公正性を損ない、投資家の信頼を揺るがすリスクがあるため、厳しく規制されています。

しかし、どのような行為がインサイダー取引に該当するのか、また、知らず知らずのうちに違反してしまうケースがあるのか、不安を感じる方も多いでしょう。

本記事では、インサイダー取引の基本的な仕組み、該当する具体的なケース、企業や個人が未然に防ぐための対策について詳しく解説します。法令を正しく理解し、公正な取引を行うための知識を身につけましょう。

インサイダー取引とは?

インサイダー取引(Insider Trading)とは、企業の重要な未公表情報(内部情報)を知る立場にある人が、その情報をもとに株式や社債などの金融商品を売買する行為を指します。これは、公正な市場の形成を阻害し、投資家の信頼を損なうため、金融商品取引法(証券取引法)によって厳しく禁止されています。

インサイダー取引の対象となる「内部情報」とは?

「内部情報」とは、会社の業績や経営に関する重要な情報で、まだ一般に公表されていないものを指します。以下のような情報が該当します。

代表的な内部情報

  • 決算情報の変更(赤字転落、大幅な増収など)
  • M&Aに関する情報
  • 新規事業や重要な契約の締結・解消
  • 株式分割、自己株式取得の決定
  • 製品の重大な不具合やリコール情報
  • 経営トップの交代や不祥事の発覚

このような情報が「公表」される前に、その情報を知る立場にある人が株式を売買すると、インサイダー取引とみなされる可能性があります。

インサイダー取引が成立する条件

インサイダー取引と認定されるには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。

条件内容
① 会社関係者であること役員・従業員・大株主・取引先・監査法人など
② 内部情報を知ったこと会社の重要な未公表情報を知った
③ その情報が公表されていないこと証券取引所への開示や新聞報道前の段階
④ その情報を利用して株式等を売買したこと内部情報をもとに株を買う・売る

この4つの条件が揃うと、インサイダー取引として違法となります。

インサイダー取引の罰則

日本では、金融商品取引法により、インサイダー取引には以下の罰則が科せられます。

罰則の種類内容
刑事罰5年以下の懲役または500万円以下の罰金(法人は5億円以下の罰金)
行政処分課徴金(違法取引で得た利益の額に応じた罰金)
民事責任投資家から損害賠償請求を受ける可能性あり

刑事罰と行政処分は併科されることが多いため、違反した場合の負担は大きいです。会社がインサイダー取引を防止できなかった場合、企業自体も処罰対象となる可能性があります。日本だけでなく、米国やEUなど世界各国でも、インサイダー取引は厳しく規制されています。

インサイダー取引に該当する具体的なケース

インサイダー取引は、単に企業の関係者が内部情報をもとに株取引を行うだけでなく、家族や知人、取引先、外部コンサルタントなどを通じて行われる場合も違法となります。ここでは、具体的な事例をもとに、インサイダー取引に該当するケースを解説します。

① 役員・従業員が自社の未公表情報をもとに株を売買

ケース1:決算情報を知り、株を売買

【事例】
A社の経理担当者が、決算発表前に「大幅な赤字になる」という情報を知ったため、保有していた自社株を事前に売却し、損失を回避した。

【インサイダー取引の成立条件】

✅ 会社関係者(A社の従業員)
✅ 内部情報(決算発表前の赤字情報)
✅ 情報が未公表
✅ その情報を利用して株を売却

このケースは明らかなインサイダー取引と認定され、金融商品取引法違反に該当します。

② M&A情報を利用した取引

ケース 2:買収情報を知り、株を購入

【事例】
B社の取締役が、C社を買収する計画があることを知り、発表前にC社の株を大量に購入。その後、買収が公表され、C社の株価が急騰したため、大きな利益を得た。

【インサイダー取引の成立条件】

✅ 会社関係者(B社の取締役)
✅ 内部情報(C社買収の未公表情報)
✅ 情報が未公表
✅ その情報を利用して株を購入

このケースは典型的なインサイダー取引であり、厳しく処罰される可能性が高いです。

③ 取引先やコンサルタントが得た情報をもとに取引

ケース 3:取引先の企業情報を利用

【事例】
D社と取引関係のあるE社の営業担当者が、D社が新規事業を発表する直前であることを知り、D社の株を購入。発表後、D社の株価が上昇し、利益を得た。

【インサイダー取引の成立条件】

✅ 会社関係者(直接の従業員ではないが、取引先として業務上の情報を取得)
✅ 内部情報(新規事業の未公表情報)
✅ 情報が未公表
✅ その情報を利用して株を購入

➡ 取引先の関係者であっても、業務上知り得た内部情報をもとに株取引を行うと、インサイダー取引に該当します。

④ 家族・知人を通じたインサイダー取引

ケース 4:家族に情報を伝え、株を売買

【事例】
F社の役員が、経営不振による人員削減を予定していることを知り、妻に伝えた。妻はその情報をもとに、F社の株を事前に売却した。

【インサイダー取引の成立条件】

✅ 会社関係者(F社の役員)
✅ 内部情報(経営不振によるリストラ計画)
✅ 情報が未公表
✅ その情報を聞いた家族が株を売却

本人が直接売買しなくても、家族や知人に情報を伝え、取引をさせた場合もインサイダー取引に該当します。

⑤ SNSやメディアで知った未公表情報をもとに取引

ケース 5:SNSでの情報を基に株を購入

【事例】
G社の社員が、社内会議で新製品の開発情報を知る。その情報が社内のチャットアプリで話題となり、それを見たG社の従業員が株を購入した。

【インサイダー取引の成立条件】

✅ 会社関係者(G社の社員)
✅ 内部情報(新製品開発の未公表情報)
✅ 情報が未公表
✅ その情報をもとに株を購入

➡ たとえSNSや社内メッセージで偶然知った情報でも、内部情報を利用して取引を行うとインサイダー取引に該当します。

インサイダー取引を未然に防ぐための対策

インサイダー取引は、企業の信頼を損ない、市場の公正性を損なう重大な違反行為です。企業の役員や従業員、取引先などの関係者は、知らず知らずのうちにインサイダー取引に関与してしまうリスクがあるため、事前に適切な対策を講じることが重要です。

ここでは、企業や個人がインサイダー取引を防ぐための具体的な対策について解説します。

① 未公表情報の管理を徹底する

インサイダー取引の大きな原因のひとつは、社内の未公表情報が適切に管理されていないことです。内部情報の管理を徹底し、情報漏洩を防ぐことで、インサイダー取引のリスクを軽減できます。

具体的な対策

  • 未公表情報にアクセスできる従業員を制限(必要な部署のみに限定)
  • 未公表情報には「社外秘」の明示を徹底(社内文書・メール等)
  • 社内チャットやSNSでの情報共有を制限(不用意な情報拡散を防ぐ)
  • USB・クラウドストレージの使用制限(機密情報の持ち出しを防止)

📌
新規事業の立ち上げ情報が、社内チャットで不用意に共有されないように、機密情報の閲覧権限を限定し、適切な管理を行う。

② 役員・従業員向けの教育・研修を実施する

インサイダー取引を未然に防ぐためには、従業員が正しい知識を持ち、リスクを理解することが重要です。特に、役員や経理・法務・IR(投資家向け広報)部門の担当者は、未公表情報を扱う機会が多いため、定期的な教育が必要です。

具体的な対策

  • 新入社員・管理職向けに、インサイダー取引防止研修を実施
  • 定期的にコンプライアンス研修を行い、意識を高める
  • インサイダー取引に関するガイドラインを作成し、社内周知する

📌 例:
毎年、役員・従業員向けに「インサイダー取引防止研修」を実施し、具体的な違反事例やリスクを学ぶ機会を設ける。

自社株の売買ルールを明確にする

員や従業員が自社株を取引する際のルールを明確にし、適切なタイミングで売買できるようにすることも、インサイダー取引を防ぐ重要なポイントです。

具体的な対策

  • 自社株の売買禁止期間(クローズド・ピリオド)の設定
    • 決算発表前やM&A情報発表前など、未公表情報が多い期間は売買を禁止する。
  • 自社株売買時の事前申請ルールを設ける
    • 役員や従業員が自社株を売買する場合、事前に法務部やコンプライアンス部門に報告し、承認を得る仕組みを導入する。
  • 役員の自社株売買情報を開示
    • 役員が自社株を売買した場合、投資家や株主に開示するルールを設ける。

📌
決算発表の2週間前から発表翌日までは、役員・従業員の自社株売買を禁止する「クローズド・ピリオド」を設定し、インサイダー取引を防ぐ。

④ 外部関係者との情報共有を管理する

インサイダー取引は、企業の内部関係者だけでなく、取引先、コンサルタント、監査法人、弁護士などの外部関係者を通じても発生する可能性があります。そのため、外部関係者との情報共有についても厳格な管理が必要です。

具体的な対策

  • 外部関係者と機密保持契約(NDA)を締結し、情報漏洩を防止
  • M&Aや決算情報を扱う際は、情報共有範囲を最小限に制限
  • 外部関係者へのインサイダー取引防止の注意喚起を徹底

📌
企業買収を検討する際、M&Aアドバイザーや会計士と情報を共有する場合は、必ず機密保持契約(NDA)を結び、情報の取り扱いを明確にする。

⑤ 内部監査・モニタリングを強化する

インサイダー取引を防ぐためには、企業が適切な監視体制を整備し、定期的にチェックすることが不可欠です。

具体的な対策

  • 役員・従業員の株取引履歴をチェックし、不審な取引がないか監視
  • 取締役会・監査委員会によるインサイダー取引防止体制の評価
  • 取引所や証券会社と連携し、不正な取引の兆候を把握

📌
自社株の取引履歴を定期的に監査し、決算発表直前の異常な売買がないかをモニタリングする。

インサイダー取引が発覚した場合の企業や個人への影響

インサイダー取引が発覚すると、企業や関係者に対して法的処罰や信用の低下などの重大な影響が及びます。違法行為が明らかになった場合、企業だけでなく、市場全体の信頼性が揺らぐ可能性もあります。

【 企業への影響

1.企業の信用低下・ブランドイメージの毀損

インサイダー取引が発覚すると、投資家や市場からの信頼を失い、企業イメージが大きく損なわれます。

2.株価の急落

インサイダー取引が発覚すると、投資家が企業の健全性を疑い、株の売りが増加します。結果として、株価が急落し、企業価値が大きく損なわれる可能性があります。

3.証券取引所や金融当局からの行政処分

証券取引所や金融庁からの業務改善命令、取引停止処分などを受ける可能性があります。また、企業の管理体制の不備が指摘されると、コンプライアンス強化が求められます。

【 個人への影響 】

1.法的処罰(刑事罰・行政処分)

5年以下の懲役または500万円以下の罰金(法人の場合は5億円以下)が科せられます。

2.社会的信用の失墜・解雇

企業の役員・従業員が関与していた場合、即時解雇・退職勧告を受ける可能性が高いです。経営者が関与していた場合、辞任を求められることもあります。

3.投資家からの損害賠償請求

不正な取引によって損害を被った投資家が、損害賠償請求を行う可能性があります。株主代表訴訟による賠償責任が発生することもあり得ます。

📌
過去には、大手企業の役員や従業員がインサイダー取引で逮捕・起訴され、会社の株価が暴落し、数百億円規模の損害を受けたケースもあります。

インサイダー取引が発覚した場合の対応策

インサイダー取引が発覚した場合、企業は迅速かつ適切な対応を取ることが求めらます。

【 企業が取るべき対応策 】

1.事実関係の調査を実施

社内監査や弁護士・第三者委員会を活用し、インサイダー取引の実態を調査し、どの情報が漏洩し、誰が関与したのかを明確にすることが重要です。

2.証券取引所・金融庁への報告

速やかに証券取引所や金融庁へ報告し、必要な対応の協議を行いましょう。遅延すると市場の不信感が高まり、企業価値がさらに低下する恐れがあります。

3.社内処分・関与者の責任追及

インサイダー取引に関与した社員・役員に対して、懲戒処分や解雇などの対応を行い、違法行為があった場合は、刑事告発を検討することも必要です。

4.再発防止策の実施

社内の情報管理体制を見直し、インサイダー取引を防ぐ仕組みを構築しましょう。従業員向けの研修・教育を強化し、再発防止を徹底していくことが大切です。

5.投資家・ステークホルダーへの説明

株主・投資家向けに説明会を開き、事態の収束に向けた対応を明確に伝え、情報を積極的に開示することで、市場の信頼回復を図ることを努めることが大切です。

インサイダー取引に関するよくある質問(FAQ)

最後にインサイダー取引に関するよくある質問と回答をご紹介します。

Q. 会社の役員や従業員以外でも、インサイダー取引に該当しますか?

はい。インサイダー取引の規制対象は、会社の役員・従業員に限らず、取引先、コンサルタント、監査法人、弁護士、家族・知人などにも適用されます。
例えば、友人や家族が会社の内部情報を知り、その情報をもとに株を売買した場合も違法とみなされます。

Q. 未公表情報を聞いたが、自分では取引せず、知人に教えた場合も違法ですか?

はい、違法です。本人が株を売買しなくても、知人や家族に未公表情報を伝え、それを基に取引をさせた場合もインサイダー取引に該当します。これは「情報の伝達者」も処罰の対象になるため、注意が必要です。

Q. SNSやインターネットで得た情報をもとに株を売買すると、インサイダー取引になりますか?

情報が未公表であり、それが企業の内部情報である場合は、インサイダー取引に該当する可能性があります。
特に、内部関係者がSNSなどに未公表情報を投稿し、それを見た第三者が取引を行った場合、違法と判断される可能性が高いです。
一方で、新聞やニュースサイトなどで公式に報道された情報をもとに取引することは、インサイダー取引には該当しません。

Q. 自分の会社の株を買いたいのですが、いつでも売買しても大丈夫ですか?

会社の役員や従業員が自社株を売買する場合、「クローズド・ピリオド(取引禁止期間)」が設定されている場合があります。

例えば、決算発表前やM&Aの発表前などの期間は、自社株の売買を禁止する企業が多いです。
自社株を売買する前に、会社のルール(インサイダー取引防止規程など)を確認することが重要です。

インサイダー取引について まとめ

インサイダー取引は、企業の未公表情報を利用した不公正な取引であり、市場の透明性と公平性を損なう重大な違法行為です。企業の役員や従業員だけでなく、取引先や家族、知人も対象となるため、意図せず関与してしまうリスクがある点に注意が必要です。

特に、決算情報やM&A情報などの重要な内部情報に接する機会のある人は、株取引のタイミングに細心の注意を払うことが求められます。また、知らずに第三者へ情報を伝えた場合でも、違法となる可能性があるため、情報の取り扱いには十分な慎重さが必要です。

インサイダー取引のリスクを理解し、適切なルールとモラルを守ることで、公正で健全な市場を維持し、投資家や社会からの信頼を確保することができます。個人としても企業としても、常にコンプライアンス意識を持ち、適切な取引を行うことが重要です。


当社では、M&Aに精通した経験豊富なコンサルタントが在籍しております。                                             是非、コンサルタントとの無料相談をご活用ください。


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