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M&Aにおけるコーポレートガバナンスとは?意味や目的、内部統制との違いについて解説

近年、企業の成長戦略や事業承継の手段としてM&A(合併・買収)が注目されています。しかし、M&Aを成功させるためには、「コーポレートガバナンス(企業統治)」の強化が欠かせません。適切なガバナンスが確立されていないと、M&A後に経営の混乱や不正リスクが高まり、企業価値の向上どころか、むしろ事業の不安定化につながる可能性があります。

本記事では、M&Aにおけるコーポレートガバナンスの役割や目的、内部統制との違いについて詳しく解説します。M&Aを検討している企業や経営者の方は、適切なガバナンスを構築するためのポイントを押さえ、M&A後の持続的な成長につなげていきましょう。

コーポレートガバナンスとは?

コーポレートガバナンス(Corporate Governance)とは、企業が健全かつ持続的に経営を行うための仕組みやルールを指します。主に、経営の透明性・公正性を確保し、株主やステークホルダーの利益を守るための管理体制を指します。

具体的には、取締役会や監査役、外部の監査機関が経営者の意思決定を監視し、不正や不適切な経営を防ぐ役割を担います。

コーポレートガバナンスが策定された背景

コーポレートガバナンスの概念が重要視されるようになった背景には、企業不祥事の多発や株主・投資家の権利意識の向上があります。企業経営において、株主やステークホルダーの利益を守り、健全な経営を維持するために、コーポレートガバナンスの整備が求められるようになりました。

コーポレートガバナンスが策定・強化された背景には、以下のような要因があります。

背景要因詳細
企業不祥事の多発経営の透明性確保のためにガバナンス強化が求められた
株主の権利意識の向上投資家が企業経営に積極的に関与するようになった
M&Aの増加企業統合後の経営監視やリスク管理が重要になった
ESG経営の普及企業の持続的な成長に向けてガバナンス強化が求められる

このような背景から、コーポレートガバナンスは企業経営の基本として不可欠な要素となり、特にM&Aにおいては経営の健全性を確保する重要な役割を果たすといえます。

コーポレートガバナンスと内部統制の違い

コーポレートガバナンス(企業統治)と内部統制は、どちらも企業の経営管理やリスクマネジメントに関わる重要な概念ですが、目的や仕組みが異なります

簡単に言うと、コーポレートガバナンスは、「企業の経営全体を監督・統治する仕組み」を指し、内部統制は、「業務の適正性やコンプライアンスを確保するための具体的な管理体制」を指します。

コーポレートガバナンスと内部統制は、共に企業経営の適正化に重要な役割を果たしますが、「経営の監視」と「業務の管理」という視点で異なります。

コーポレートガバナンス・コードとは?

「コーポレートガバナンス・コード(Corporate Governance Code)」とは、上場企業が健全な経営を行い、企業価値を持続的に向上させるための原則を定めた指針です。2015年に金融庁と東京証券取引所(東証)が策定し、その後、経済環境の変化に応じて2018年・2021年に改訂されました。特に2021年の改訂では、ESG・ダイバーシティ・プライム市場企業のガバナンス強化が重視されています。

このコードは、企業が株主をはじめとするステークホルダー(投資家、取引先、従業員、社会など)の利益を尊重しながら、経営の透明性を高め、持続可能な成長を実現することを目的としています。

コーポレートガバナンス・コードは、以下の5つの基本原則に基づいています。

1.株主の権利・平等性の確保

企業は、すべての株主の権利を尊重し、平等に扱う必要があります。特に、少数株主(支配株主を持たない一般の株主)の権利保護が重要視されています。

2.株主以外のステークホルダーの利益を尊重

企業は、従業員、取引先、地域社会など、株主以外のステークホルダーの利益にも配慮した経営を行う必要があります。 また、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みも強く求められています。

3.適切な情報開示と透明性の確保

企業は、財務情報だけでなく、経営戦略やリスク情報、ガバナンス体制などを積極的に開示することが求められます。透明性の確保は、投資家の信頼を得るために不可欠です。

4.取締役会の責務と機能強化

取締役会は、単なる意思決定機関ではなく、経営の監視と監督を行う機関として機能することが求められます。そのため、独立性の高い社外取締役の設置が重要なポイントとなります。

5.株主との対話の促進

企業は、株主(特に機関投資家)との建設的な対話を重視し、長期的な企業価値向上を目指すべきとされています。

M&Aにおけるコーポレートガバナンスの目的

M&Aは、企業の成長戦略や事業継承の手段として活用されますが、経営の透明性や適切な監視体制がなければ、統合後の経営混乱や不正リスクが発生する可能性があります。そのため、M&Aにおいては、コーポレートガバナンス(企業統治)を強化し、適正な経営を維持することが重要です。

① M&A後の経営の透明性を確保する

M&Aが実行されると、買い手企業と売り手企業の経営方針や企業文化が異なるため、経営の透明性を確保することが重要になります。

具体例として「M&A後、経営陣が不透明な意思決定を行わないよう、独立社外取締役を増員し、監視機能を強化する」ことが重要になってきます。

② 企業価値の最大化と株主の利益保護

M&Aは、企業価値の向上を目的として実施されますが、適切なガバナンスがなければ統合の失敗や経営リスクの増加により、株主価値が毀損する可能性があります

具体例として「M&A後に事業の再編を進める際、企業価値向上の観点から、収益性の低い事業を適切に整理・売却するなどの経営判断を監視する」ことも重要です。

③ M&Aに伴うリスクの管理

M&Aは大きな経営判断であり、財務リスクや事業リスク、法的リスクが伴います。特に、M&A後に不適切な経営が行われると、買い手企業と売り手企業の両方に悪影響を及ぼす可能性があるため、ガバナンスの強化が求められます。

具体例として「M&A後に粉飾決算や法的トラブルが発覚しないよう、買収企業の会計監査を強化し、不正リスクを未然に防ぐ」ことが重要です。

④ 企業文化・組織の統合を円滑に進める

M&Aでは、買収企業と被買収企業の文化や組織が異なるため、統合がスムーズに進まないケースが多くあります。文化の違いを放置すると、従業員の士気低下や離職が発生し、シナジー効果が十分に発揮されない可能性があります。

具体例として「M&A後に従業員のエンゲージメント向上のため、両社の社員が交流できるワークショップや研修を実施する」ことも検討すると良いでしょう。

⑤ ステークホルダーとの信頼関係を構築する

M&Aは、投資家や取引先、従業員、顧客など多くのステークホルダーに影響を与えます。適切なコーポレートガバナンスを構築することで、M&Aに対する信頼を得ることができます。

具体例として「M&A発表後、投資家向けに説明会を実施し、今後の経営戦略を丁寧に説明することで、市場の信頼を維持する」ことが大切です。

M&A後にコーポレートガバナンスを強化するための方法

M&A後の企業統合では、経営の透明性を維持し、適切な意思決定が行われる体制を整えることが重要です。特に、買い手と売り手企業の間で、経営方針や業務プロセス、企業文化の違いがある場合、それらを統一し、円滑な運営を実現するために、コーポレートガバナンスの強化が必要となります。

強化方法具体的な取り組み
① 取締役会の機能強化独立社外取締役の増員・経営戦略のレビュー
② 内部統制の整備業務フローの統一・リスク管理の強化
③ 経営層と従業員のコミュニケーション強化社内研修・タウンホールミーティング
④ ステークホルダーとの関係強化投資家・取引先・顧客への説明強化
⑤ KPIの設定とモニタリング収益・ガバナンス指標の定期評価

M&A後にコーポレートガバナンスを強化することで、経営の透明性を高め、リスクを管理し、統合後のシナジー効果を最大限に引き出すことが可能になります。

M&A後のコーポレートガバナンスの注意点とポイント

M&A後の企業統合では、適切なコーポレートガバナンスを確立しないと、経営の混乱やリスクの増大につながる可能性があります。M&Aによるシナジーを最大限に発揮し、企業価値を向上させるためには、統合後のガバナンス体制を慎重に整備することが重要です。

① 経営陣のガバナンス体制を明確にする

M&A後に経営陣の役割や責任が不明確だと、意思決定の遅れや対立が発生する可能性があります。特に、買収企業と被買収企業の経営スタイルが異なる場合、統合後のリーダーシップが機能しにくくなることがあります。

M&A後、経営判断がスムーズに行われるよう、新たな経営陣の役割分担を策定し、取締役会の議決権を調整することが大切です。

② 内部統制とリスク管理を強化する

M&A後に内部統制が機能しないと、財務リスクやコンプライアンス違反、不正の温床となる可能性があります。買い手企業と売り手企業の業務フローが異なる場合、内部監査やリスク管理が統一されず、ガバナンスの弱体化を招くこともあります。

M&A後、買収企業の経理システムを統一し、請求書や支払の承認フローを一元化して不正リスクを低減する取り組みが重要になります。

③ 企業文化の違いを考慮し組織の一体化を促進

M&A後の企業文化の統合がうまく進まないと、従業員の離職率が上がり、業務の混乱やモチベーションの低下を招く可能性があります。企業文化の違いを無視したまま統合を進めると、組織の対立を引き起こすこともあります。

M&A後、従業員間の相互理解を深めるため、社内イベントや交流会を定期的に開催し、新しい企業文化を醸成するような働きかけが大切です。

④ ステークホルダーへの情報開示と信頼関係の維持

M&Aによる変化が株主や投資家、取引先、顧客に十分に説明されないと、市場の信頼を失い、株価の下落や取引関係の悪化を招く可能性があります。

M&A完了後、IR(投資家向け広報)を強化し、経営統合の進捗や今後の戦略を明確に説明することが重要です。

⑤KPIを設定し定期的にモニタリング

M&A後の成果を適切に測定しないと、シナジー効果が期待通りに発揮されているか判断できず、問題が発生しても対応が遅れる可能性があります。

M&A後、売上成長率・コスト削減率・従業員のエンゲージメント指数などのKPIを設定し、毎月の取締役会でモニタリングするなどの取り組みが必要になります。

コーポレートガバナンスについて まとめ

コーポレートガバナンスは、企業が健全で透明性の高い経営を行い、持続的に成長するための重要な仕組みです。特にM&Aの場面では、経営統合のスムーズな実施や、株主・ステークホルダーとの信頼関係の維持、不正リスクの回避など、ガバナンスの強化が企業の成功を左右する重要な要素となります。企業の成長や安定的な経営を実現するためには、短期的な利益の追求だけでなく、コーポレートガバナンスを強化し、長期的な企業価値向上を目指すことが不可欠です。経営者として適切なガバナンスを整備し、透明性と信頼性のある経営を実践していくことが、今後の企業経営においてますます求められるでしょう。


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